HERMÈS IN MOTION -WATER FOREST-

2021/ Shop Window/ Tokyo

伊勢丹新宿店にオープンしたエルメス・テンポラリーストア「HERMÈS IN MOTION」。さらに二店舗がオープンとなり、それに合わせてメンズ館のウィンドウも入れ替わりました。

ウィンドウでは、4つの店舗と同様に、馬の脚の動きを空間化することで、動的且つ発見的な場を立ち上げ、そこにNarrative(物語)を編み込もうと考えました。馬の脚の動きから抽出した二つの図形同士を直線で繋いでいくと、立体的なサーフェースが立ち上がり、第一弾のウィンドウではGROUND CAVEとして洞窟のような空間を作り出しています。そして今回のウィンドウでは、その空間の反転を試みました。図としての馬の脚と、地としての空隙が入れ替わり、まったく異なる空間が立ち上がっていきます。

氷河の浸食によって削り出されたようにも見えるこの空間は、長い時を経て深い森の中に生まれた不思議な海の世界です。水の中には波に揺らめく水草の森があり、色鮮やかな花やサンゴが咲き乱れ、やわらかな水苔のトンネルが続いています。その中にエルメスのアイテムが散りばめられ、それをあらゆる水の生き物たちが思い思いに探しています。Ground Caveを発ち、長旅を経て辿り着いたペガサス達もこの不思議な世界に驚いているようです。

そして視点が変わる度に内部の見え方がダイナミックに変化するこの立体造形は、3Dデータを元に硬質発泡ウレタンフォームを削り出して作られています。さらに表面に様々な表情を重ねていくことで、奥行きの感じられるものを目指しました。

またここではGROUND CAVEと同様に、「ショーウィンドウの中に展示されるオブジェ」という在り方を超え、ウィンドウの枠組みの在り方からデザインすることで、ウィンドウにおける新しさの実現を試みています。立体造形を前面のガラスギリギリまで寄せて設置し、その立体の延長としてガラス表面に石のテクスチャの施されたシートを貼り込んでいきます。そうすることであたかも不定形のガラスが立体の中に象嵌されているような表情を作り出そうと考えました。馬の脚の動きから作られる水中の地形がガラス境界面を超え、ウィンドウそのものへと昇華していきます。

また水が密実な物の断面として表に現れてくることで、空隙として認識されていた地の部分が物としての図として立ち現れ、図と地の反転が引き起こされていきます。この動的な相対関係によってウィンドウにグラフィックとしてのダイナミズムをもたらそうと試みました。

こうして馬の脚の動きの中に様々なストーリーと世界が織り込まれ、思わず覗き込みたくなるウィンドウとなることを期待しています。

<Photo> © Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Hermès Japon